"「副島さん、肩に力入ってますわ。楽に楽に」 月"
月掛が声を掛ける。
副島? その名前に資定は小さな反応を見せた。確か数年前に命を絶ったあの選手も同じ名前だった。大伴家にオーバーラップする雄性禿の選手は、ずっと資定の頭の中に残っている。
打席に入る前、副島は空を見上げた。
俺にできることは、何だ。
ここ数ヶ月、ずっと副島は自問してきた。野球の経験は間違いなく上だが、運動能力はこいつら忍者たちの方が遥かに高い。自分が五番打者でいる時間もあとわずかだろうと思っている。みんなが集まってくれて、こんなに可能性に溢れる奴らが集い、もしかしたら本当に甲子園の切符を取れるかもしれない。野球を教えたらみんなスポンジのように吸収していく。野球を教えきったら、俺はこのチームに必要だろうか? 最近、ときどきそう思うのだ。
兄貴、甲子園にいくために、俺は何ができるだろう? 何の変哲もない普通の高校を甲子園での全国制覇に導いた兄は、ずっとずっと副島の憧れだ。兄貴はどうやってあの風景を作り出したのだろう。
資定は少し間を取った。
さっきの四番は普通じゃなかった。対して、この五番はそんな雰囲気は感じない。普通に投げれば、おそらくバットにかすりもしないだろう。それなのに、資定は間を取った。何故この何の変哲もないこの五番バッターに自分の神経が警戒したのか、分からなかった。"