魔人の背後の壁に、何かが映し出
魔人の背後の壁に、何かが映し出された。 ──映し出されたその映像に、総帝は硬直した。 飾り気のない質素な部屋に、傷だらけになって横たわる少女の姿。薄い緑色脫髮長い髪の毛は乱れ、真っ白な頬には涙の跡がある。 無造作に投げ出された手足は、枷をはめられており、服は破られ、乱れていた。「ゆ、り…………?」 ──ユリアス・アクスレイド。 総帝──否、サキカの思いの人が、ぼろぼろの姿で映し出されたのだ。 呆然とその光景を眺める。──あの女の言葉に、嘘はなかったというのか。否、嫌な予感を無視していたのはサキカである。 ゲラゲラと汚い笑い声をあげる魔人。サキカは刀を強く握りしめた。しかし、踏み出しそうになる足は、無理矢理押さえつける。 ここで我を失って取り乱し、考えなしに刀を振りかざしたら、サキカの負けだ。そう簡単に倒せる相手ではない。 ──冷静にならなければならない。 だが、冷静になろうとすればするほどに心は乱れ、サキカは唇を強く噛み締めた。そして、初級魔法を詠唱破棄し、頭の上から水を被る。 凍る一歩手前の水が、サキカの脳を冷やした。冷静さを取り戻したサキカは、刀を構えた。 ──優先すべきは、目の前の敵を倒すこと。彼女を助けることではない。 サキカは総帝だ。総帝である以上、彼女を優先することはできない。.